華氏FAHRENHEIT


新幹線のホーム。
また、あの香りをかいだ。
そういえば昨年も同じことがあった。


あの時、10分ほどで来る次の便を待ちながら、小説を読んでいた。
前を人が通り過ぎた。
その残り香に思わず目を上げて、その香りの人を視線が追う。
スーツ姿の男性だった・・・・。


ずいぶんと昔、といえる前のことだ。
ある仕事先の女性がいた。
彼女は、背が高く、スーツがよく似合い、その姿とマッチした
早い判断、強気の攻めで確実に実績を積み上げていく、
そういうタイプだった。

ある日、私は土曜日サービス出勤に仕事に来ていたが、予定の仕事が早く終り、
たまには街中の本屋にでも行こうと思い、直ぐ傍の一番町を歩いていた。
そこで、カジュアルな服装の彼女に逢った。

彼女も休日に買い物でもと思って来ていたらしい。
お互いに、ちょっとコーヒーでも飲もうということになった。

コーヒーショップで座ったとき、彼女の香水の匂いに気づいた。


“この香水・・・”

“あ、わかります?Diorのファーレンハイト。
  男物をつけてるって、やっぱり変ですか?”

“いやあ、お似合いですよ。このスッキリした独特の匂い、好きなんです。”

“Curtisさんもこの前、つけてましたよね。”

“俺のはアメリカに行った友人のお土産なんです。
 あれ、この前は違う香水つけてませんでした?”

“ええ、これはね、前の彼氏の忘れ物。
 彼のことはもうなんとも思ってないけど、この匂いだけは好きだったので、
 次の彼氏できるまでつけておこうかな?なんて思って。”

そう言って彼女は明るく笑った。
 

次の彼氏が出来るまで、前の彼氏の香りを装う・・・
なんとも思っていないわけがない。
ちょっとした嘘だと気づいたけど、そのまま笑い話として流すことに。
それに笑顔の中の瞳に少しだけ寂しさが映ったような気がしたから。

彼女は、その後、しばらくして転職していった。
転職先でも、格好良く仕事をこなしていくだろうと、
うちの同僚達と彼女のことはしばらく話題に上ったものだ。



いまは何をしているのだろう・・・。
そして、いまは別の香水をつけているのだろうか。

そんな香りの思い出。
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# by curtis_01 | 2006-07-08 08:34 | 徒然草