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大晦日に

朝から降り続く雪。

日本人的長期休暇だというのに、
これでは楽しみにしていたロードバイク、デローザでツーリングに行けない・・・。
あきめて、応募用小説に取り掛かる。
主人公たちの動きが鈍くなったところで、一時休止。
気分転換に恋愛になれない恋愛小説の短編を書く。

一段落したところで、完璧なまでの風呂掃除。
そして、入浴してからスーパーで買ってきたコロッケと
ボルドー地方のワイン。

降り止まない雪を眺めながら、人並みにこの一年を振り返る。

さまざまな瞬間が去来する一年。
過ぎ去ったことは取り戻せない・・・。
伝え切れなかった想いも言い訳は利かない。
せめて、この杯とともに静かに年越しできるように。



年越しは静かに積もるこの雪にかすみ消される君の姿と

                       虚空
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by curtis_01 | 2007-12-31 18:36 | 徒然草

Everything's Gonna Be Alright.

ふう・・・。
フローリングの床に伸ばした右腕を枕に横たわる。
飲みすぎた・・・。

自転車レース仲間を見舞ってきた。
その回復力の凄さにも驚いたが、またいつか一緒にレースが出来そうだという。
別の友達から、自身のことで少し安心できるメールが届いた。
そのうれしいふたつの事がワインの杯を重ねさせた。


・・・伸ばした手をそっと握られた。

「・・・何か、うれしそうだね。」

「うん。」

「あのさ、何事も無く、こうやって手を握っていられるってことだけでも幸せなんだね。」

「うん。」

「いままで、感じたこと無かったな。」

「うん。」

「私を・・・、ひとりにしないでね。」

「・・・うん。」

「・・・うん。みんな、きっと上手くいくよ。」

「うん。」




ひと想い君の望みを叶えてと月を仰ぎて切に願いて
                        虚空
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by curtis_01 | 2007-12-29 21:58 | 徒然草

戦友へ

辛くって、苦しくって、何でって思うけど、それでも走りたい。
それがロードバイクの快感だった。
その世界に引き込んだ奴がいる。

たった1~2年で自分がレースにまでとは思いもしなかった。
楽しいレース、そして最高の仲間たちだった。
だから、またあのチームで走れることを楽しみにしている。


君がレースに戻って来れるようになるまで、待っているぜ。

戦友。
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by curtis_01 | 2007-12-25 23:10 | 自転車

dessert.

明るい朝の光と珈琲の香りに満たされた部屋。
白い壁に並んで座る、ジーンズとTシャツ姿の二人。
反対側の壁には僕のMTB、“33rpm”。


君は小説、僕は雑誌を。


ふと、目が合うと軽いキス。
二人で過ごした時間の・・・
そう、デザートのような静かなひととき・・・。


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by curtis_01 | 2007-12-24 16:23 | 徒然草

光のページェント。

光のページェントが綺麗な定禅寺通り。

その北側にある市民公園の大きなヒマラヤ杉の
イルミネーションの写真を送った。

“きれい。この下を歩きたい。”
と返信が届く。

“では、一緒に。”

“でも、クリスマスでせわしない場所での食事は嫌よ。”

さて、店のチョイスからか・・・。



上弦の月に満たした酒干して木々に輝く星を貴女に
                           虚空
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by curtis_01 | 2007-12-17 20:16 | 徒然草

診療所へ。

流石に、昨日の今日。
頭の痛みとだるさが酷い。
朝の5時に目が覚めて、フラフラとトイレに行ったときに
会社を休むことは決めていた。
寝床に戻って“さて”、と悩む。

①仙台のアパートに帰り、アパートの傍にある主治医がいる大病院に行く。
②この自宅のある町の小さな診療所に行く。

“もしも”のこと、飲める薬の制限のことを考えると、
仙台に帰って主治医に診てもらったほうが確実。
でも、クルマを運転して仙台に戻るのはちょっと大変だ。
そして発症したときのだるさじゃないと身体は教えてくれている。
この小さな町の診療所に行く。そう決めた。

朝の受付時間は知らなかったが、
8時半頃はもう開いているだろうと見当をつけクルマで向かう。

しかし、あるはずの場所に診療所が無いと思ったら、
隣に綺麗に建て替えられた診療所があった。
というより、数年前には建て替えられていたはず。
この道は何度も通っていたのに・・・
軽いめまいとともに、意識、もしくは認識力の低下を感じる。
やっぱり調子が悪いんだなぁ。

前の診療所は、子供の頃から世話になった、
昭和初期のままで暗く、陰鬱なイメージだった。
もっとも、子供の頃から身体が弱く、本当によく診療所に通って
注射や、治療をされていたのだからいいイメージは持っているはずは無いけど。

今の建物は、白い内壁と木材を多用したやさしく、柔らかな感じ。
天井も高く、天窓から差し込む光が明るい。
働いている看護師、医療事務の女性たちも
グレーやピンクのカーディガンが似合う若い方々に変わっていた。

そんな明るい静かな中で隣に座るおばあさんたちの
「いつもあんたは元気そうだねぇ」
「いえいえ、あんたこそ、足腰が達者で」
などという診察待ちの人にあるまじき昔ながらの会話に、
くすりと笑いながら診察までを終了。
なんとなく、変わるもの、変わらないものへ慈しむ気持ちになった。

自宅の自分の部屋に帰ってきて、寝床に入る。
隣に置いてあるデローザを“ここ1週間乗ってないなぁ・・・”と眺める。
早く良くなろうっと。
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by curtis_01 | 2007-12-17 11:40 | 自転車

a man and a woman

ひじょーにダルイ。アタマイタイ。カンセツガイタイ・・・。
風邪をひいたらしい・・・。
先週、職場でみんなゲホゲホ咳していたからなぁ・・。

もっとも、今日は雪が降って、
ロードバイクで走れないし、
あきらめがつくというもの。

昨日の夜から、自宅に誰もいないっつーことで
留守番で帰ってきてて良かったよ。
アパートの部屋んなかなんか、食うもの無かったし。
とりあえず、食う物あるし、ひとりでゆっくりと過ごすことでDVD鑑賞。

二輪工房『佐藤』のたつおさんからお借りした
「男と女」、「男と女:20years later」。

同じ監督が撮っていることで、流れる空気感は一緒。
熱でぼーっとしている自分にはちょうど良かった。

やはり、オリジナルのほうがしっくりくるな。
男と女の恋に落ちるストーリーも。
20年後にまた逢えたらという「20years later」も
レストランでの再会シーンはいい。
こんなふうに再会したいね。
でも、これは男の発想、男が書いた話だなぁ。
女の人は、次の男を全てにおいて愛すもの。
昔の人を懐かしむもことがあっても、
愛することは無いだろうなぁ。

白いマスタングクーペは65年型だな。
アメ車の中で一番好きなんだよね。
コブラとか、スティングレイとか、デイトナ・クーペなんかより。
いまだに、欲しいなぁ。

特にレースのシーンでフェラーリ250LMや、
ジャガーEタイプクーペ、アルファ・ロメオTZが走り去るシーンも素敵。
あれ?クルマもう止めたんだけどな・・・。

あぁ、カラダガイタイ・・・。
大体、20年も生きられないだろうな、俺(笑)。
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by curtis_01 | 2007-12-16 15:33 | 徒然草

女友達。

エントランスホールで部屋番号を押す。
「いらっしゃい。」彼女の明るい声とともに大きなドアのロックが外れた。
エレベーターに赤いクロモリのロードバイクとともに乗り込む。
彼女の部屋の前に着き、呼び鈴を押すと、直ぐにレイコは出てきた。
長い髪を後ろでまとめて、薄く化粧をしている。
生成りのニットセーターに、穿き古したジーンズ。足は素足だ。
そのシンプルなスタイルが細身の身体によく似合っている。

「・・・・自転車で来たの?!」
「いや、クルマだけど・・・。」
「じゃあ、何で自転車持ってきているのよ?」
「だって、クルマの中に置いていて盗まれたら嫌じゃん。」
「ここに持ってこないで部屋に置いてくればよかったでしょ。」
「明日起きたら、そのまま自転車をクルマに積んで何処かに行こうと思ってさ。」
「んもう、相変わらず子供なんだから。わかったから入りなさいよ。」
その言葉にありがたくロードバイクを持ち上げて玄関を入る。
さすがに自分の部屋でやっているように、部屋の中をそのまま押して歩くのは
気が引けるほど綺麗なフローリングの床だ。

手にしていた袋を渡す。
「はい、これ。」
「ヴーヴ・クリコとローヌ地方のワイン。ワインは良いの選んできたわね。」
「ショウコは?」
「中にいるわ。」

ダイニングとリビングがオープンに繋がっているスペースに入っていくと、
ソファーにもたれかかって、長いグレーのスカート、ブラックのカシミアのセーターで
手にはシャンパングラスの女性がいた。
「もう飲んでいたのかよ。はやいよ。」
「あんたが遅いの。何よ、その赤い自転車。」
「うん、明日起きたらそのままクルマに積んで、どっか行こうかと思ってさ。」
「つーか、部屋に持ってくる?」
「あ、俺のアパートの部屋、3台のバイクでいっぱい。」
「馬鹿だよね、確実に。人の部屋まで持って来ないわよ、普通。」
「クルマの中に置いて盗まれたら嫌じゃん。」とレイコに言ったのと同じ事を言う。

そのやり取りを、オープンキッチンで聞いていたレイコが笑いながら言う。
「あれだよね。いつもぬいぐるみとか、毛布とか手放さなかったちいさい子供。」
「そうそう、取り上げようとするとすぐ泣く子供よね。」
「うるさいよ、お前ら。」
笑い、やっぱりこいつらには敵わないと思いながら、壁にデローザをもたれ掛け、
着替えの入ったバッグを置く。

「あれ、ショウコ。ミウちゃんは?」彼女には高校2年生の娘がいる。
「ああ、私の実家に行ってるよ。大丈夫、親思いのしっかりした子なんだから。」
「親に似なくてよかったな。」
「うるさいわよ。離婚してからきちんと育てた私の勝利だね。」
「おいおい、おまえが手を掛けなかったからだろう。ミウちゃんに会いたかったなぁ。」
「ますます可愛くなったんだから。
 あなたみたいな不良中年に会わせられるわけが無いでしょう。」
とレイコが言う。
「酷い。」この一言でみんなが笑う。
ショウコが離婚の後、一人娘との生活を守るために必死に仕事をして、
ミウちゃんを大事にしていたのは、レイコも俺もよく知っている。
特にレイコは当時、2日と間をおかずにショウコの家に行ってミウちゃんの面倒を見ていた。
その所為で、ミウちゃんは今も「ショウコママ、レイコママ。」と二人を呼んでいるくらいだ。

「それにしても、レイコも離婚とはね。」言葉とは裏腹に明るい声でショウコが言う。
「しょうがないわ。愛せない男と一生いられないもの。あ、Curtis、手伝って。」
料理をテーブルに並べながら、レイコは言う。
「ああ。」雲行きのあやしい話なだけに素直に立って料理を運ぶのを手伝う。
大体、ショウコはこういうときは動かない。
「それはわかるぅ。もう無理だよね。でも、あなたは子供いないし、これから別の男よ!
 あ、Curtisのほうはどうなのよ?」
「何が?」やっぱり振ってきた。
「何がって、別れ話が出ているんでしょ?奥さんと。」
思わずレイコを見ると、
「ごめん。しゃべっちゃった。」舌を出し、片目を閉じて謝ってくる。
ため息をつくと、
「何が原因よ?女?それとも道楽ばっかりでかまわなかったせい?」
と、ショウコは追求してくる。
「うっさいなぁ。ほっとけって」
「まあ、夜は長いからね。」どうやらショウコは一晩かけても喋らすつもりらしい。
「おまえは自分が離婚したときのことは俺に教えなかったよな。」
「まあまあ、二人とも乾杯しよ。」とレイコがシャンパングラスを渡してくれる。
「ショウコ、Curtisがもう一本シャンパン持ってきてくれたからね。」
「とーぜん。知り合った頃、女の部屋に行くときは手土産を持って行けって
 教えたのは私だもんね。」
「古い話を覚えているなぁ・・・。」思わず苦笑いしてしまう。

昔馴染み。
俺が浪人していた頃、たまたま知り合いの飲み会で会ったのが最初。
ショウコとレイコとは気が合い、今までよくつるんでいた。
俺が家庭を持ってからは、会うといってもたまにだが、
年に1回ぐらいは離婚してからのショウコのマンションにお泊りとかで、
3人で徹底的に語り明かすのだ。
今回は離婚したばっかりのレイコを励ますという口実で
ショウコからレイコのマンションへ招集がかかったのだ。

グラスにシャンパンが満たされた。
「それでは、バツイチトリオにかんぱーい!」
「ショウコ。俺はまだ別れていないって。」
「直ぐ直ぐ!」レイコも図に乗ってくる。
「んでも、そこまで髪がさみしくなってから、女を作るのは大変よ!」
「ブルース・ウィリスだって、こんなもんだろぉ。」
ショウコはその会話で爆笑している。
駄目だ。既に半分空いたボトルが語るように、二人はハイだ。
その後は、いつものとおりレイコの料理とお互いを酒のつまみに大笑いの飲み会となった。


深夜1時。
「先に悪かったわね。レイコ、お風呂入ったら。」
髪をタオルで拭きながらショウコがバスルームから出てきた。
「うん。じゃあ、入るわ。」
既に片づけを終わらせて、コーヒーを出してくれていたレイコが答える。
「ショウコ、コーヒーはここね。」
「ありがと。」

先にシャワーを浴びていた俺はソファーの前の床に座って、
持ってきていたMTBのDVD“ROAM”をリビングの大きなTVで見ていた。

「これに出ている自転車は、今日持ってきたのとは違うのね。」
コーヒーを片手にソファーに座りながらショウコが言う。
「うん。このDVDはMTBのヤツ。持ってきたのはロード。両方好きなんだ。」
「ふーん、わかんない。」
「おい。」笑ってしまう。
「相変わらず好きになるとのめり込むわね。それで奥さんに厭きられたと。」
「そんなんじゃないよ。・・・会話がなくなってね。」
「道楽ばっかりで、家に居ないせいね。」にやりと笑いながらショウコが言う。
「そうかもしれない。会話の多い少ないが心の距離なのかも。」俺は苦笑いだ。
「駄目になりそうなの?」横目でこっちを見ながらショウコは言う。
「わかんない。日曜だけは家に帰るようにしているけど、会話は無いし。」
「別れてレイコと付き合っちゃえば?」
「どっから、そうなるんだよ?!」
「だって、二人とも気があるでしょ?昔から。」
「・・・無いって。」
「嘘つき。」
「嘘じゃないって。仲のいい友達だろ、この三人は。」
「嘘つき。」
「おまえなぁ・・・。俺はまだ妻帯者。レイコには、きっといい男が見つかるさ。」
「やせ我慢が男の身上?」
「もう、いいから。ところでおまえは彼氏とは?」
「お、反撃?上手くいっているよ。ミウも知っているし、三人で出かけたりしている。」
「それは良かったな。今度は幸せにな。」
「うん。人のことより自分のことを、よ。」
「俺はひとりでいいね。」
「そんなこと言ってぇ。・・・レイコもそう言ってたわ。」
「・・・それについて、なんて言えばいいわけ?」
「“レイコと付き合う”って。」
「もう止めよう。」
ショウコはため息ひとつ。額に手を当てて首を振っている。
その後は、ミウちゃんの新しい彼氏の話、会社の話と他愛の無い話になった。

「ああ、さっぱりした。」とレイコが出てきた。
「それにしても、私がスッピンでいられる男ってあなたくらいだわね。」
俺を見て失礼なことを言う。
「そういえばわたしもそうだわ。」とショウコも笑いながら言う。
「ああ、男として見られていないんだぁ」と俺は泣き真似をする。
そこでまたみんなで笑う。

いつか自分がこのうつつを去る時、
きっとあの日は良く笑ったなと思い出すような一日だった。
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by curtis_01 | 2007-12-09 23:57 | 徒然草

雪に願う。

pm8:30

市街地の大きな市民公園。
MTBの“33rpm”で石畳の階段を上ったり、降りたり。
地味に見えるけど、結構ハードだ。
白く弾む息が浮かんでいる。

残業帰りのサラリーマンやOL達が
チラリと視線を送ってきて
呆れた顔で通り過ぎていく。

イレギュラーに飛び込む仕事で疲れていたのと、
ここのところロードで走り回っていた所為なのか、
スピードや距離だけじゃなく、ただ遊びたくって、
早く帰り部屋で着替えて“33rpm”を持ち出した。

街をゆっくりと流す。
どんな道も段差も、何も気にしないで。

赤信号で止まる。

サラサラと雪が降ってきた。
空を見上げる。

謝りたい人がいる。
疲れてきっていた、その言葉を心情を汲めなかったと。


気付かずに言ってしまった言の葉よともに消えゆけ今宵の雪と
                               虚空
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by curtis_01 | 2007-12-04 22:10 | 自転車

狐の嫁入り

ディスクブレーキの音。
フロントのショックが沈みこみ、MTBの33rpmが止まる。

小さな神社の境内。
公孫樹の樹が昔ながらに佇んでいる。
祖母の家の裏にあるこの神社に来たのは、
数年前祖母が亡くなってから久しぶりだ。

子供の頃、そう、東京ではマクドナルドの店舗が出来始めていたけど、
この田舎では、冬に木材を運ぶ馬ぞりが、見られたような頃だ。
その頃の僕は、両親が共働きということもあって、
学校が終わるといつも祖母の家に預けられていた。
夏休みや、冬休みともなると、子供ながらにも、
自宅と祖母の家を往復するのが億劫で、ずーっと祖母の家に泊まっていた。

子供の頃の自分は、放っておけばアフロヘアになってしまう天然パーマと
いつも女の子に間違われるくらいの色白の所為で「外人」のあだ名を付けられ、
その呼び方をした相手を喧嘩で徹底的に打ち負かすという勝気な性格で友達は少なかった。
そして境内で遊んでいる子供達とは反対側の拝殿、本殿裏にひとりでいたのだ。
遠くに聞こえるにぎやかなみんなの歓声とは別に静かな境内の事柄を見ていた。

夏の朝、霧のかかる中、拝殿脇で息を殺し隠れて御神木を見ていると、
丸い小さなモノが現れ、樹を上に下にと動きはじめる。
餌を運んでいるリスだ。
尻尾を丸くしたリスの可愛らしい仕草に夢中になって眺めていた。

この拝殿からご神木のあたりは、蝶の通り道、「蝶道」になっているらしく、
昼、木陰で暑さをしのいでいるとクロアゲハやキアゲハが
ゆっくりと空気というものに漂いながら通り過ぎていくのが見えた。
そんなことを、他の奴は知らないという小さな優越感を楽しんでいた日々だった。

今日、この場所に来たのは、とあるブログで“狐の嫁入り”の話を読んで、
そんな昔のとある暑い夏の日のことを思い出したのだ。

その日、いつものようにみんなは境内の広場、僕は拝殿裏にいたときだ。
突然、空気を切り裂く硬い獣の声が響いた。

“狐だ!”

反対側の境内にいる子供達にもそれは聞こえたようで、
一瞬の静寂の後、悲鳴が上がる。

「狐だ!」
「狐よ!」

そして、慌しい軽い足音が響く。
みんなの声が消えた。

散り散りに逃げ帰ったらしい。
小学生にとって狐も狸も人を化かすわけがないと解っているのに、
日常からかけ離れた異物には恐怖が優先するのだ。

その間も狐の声は響く。
周りの木々に反射して、何処から声がしてくるのかわからない。
すると、空は晴れているのに静かに雨が降り始めた。

“狐の嫁入りだぁ。きっとこの声は、嫁入り行列の合図だったんだ。
あの話って本当だったんだな。”
狐の声の怖さより、リスや蝶道を見つけたのと同じワクワクする気持ちで逃げるのも忘れて、
御神木の木漏れ日に雨粒がキラキラと綺麗に反射している様を見つめていた。

「虚空君?」
やさしい静かな声が後ろから掛けられた。
思わず、ビクッとした。

狐か何かかと恐る恐る振り返ると、
そこには、大好きだった遠縁のお姉ちゃんの姿があった。

「あれぇ?けいこねえちゃん?どうしたの?」
その瞬間、狐の声より大好きな彼女のほうが僕の中では優先した。
彼女の実家は元々この町から離れた町にある。
そのうえ、ついこの前結婚してさらに遠くの町へ嫁いだ。
彼女が祖母の家に結婚の挨拶に来たときに
新郎となる相手に心の中で呪詛を呟いたのを覚えていた。

「うん、お盆が近いから実家に帰ってきたの。ついでにお婆様にご挨拶に来たのよ。」
「そっかぁ。あ、旦那さんは一緒なのが?」
やはり、子供ながらに気になるところはそこだった。

「ううん、あたしひとりで来たの。ところで虚空君はこんなところで何しているの?」
「あ、おねえちゃん、さっきから狐の声がしてさぁ、そしたら雨が降ってきてさ。」
「狐の嫁入りね。」人差し指を立てて片目を瞑り、けいこおねえちゃんは応えた。
「うん!」
と、次の瞬間視界が消えた。

真っ暗闇の中、何処からか声が聞こえた。
「暑い中だもんで、のぼせたかねぇ。」祖母の声だ。
「ああ、御神木の下の根のとこで寝てたわぃ。」
そこで目を開けると、祖母の家の僕が使っていた客間に
布団が敷かれ氷枕を頭の下に寝かされていた。

「お、クニさん。虚空が目を覚ましたぞ。」
「これ!暑いときは気ぃつけろっと言ったべ。」
枕元には、祖母と隣の爺さんが座っていた。

「あれ?けいこおねえちゃんは?」
「はあ?何、言ってんのや?」
祖母は呆れた顔で言う。
「さっき、来てたべ。」
「いづや?来てねぇって。」
「さっき神社に来たべや。」
そっちこそ、何言っているって怒って言った。

「・・・狐にでも化かされたが?」
爺さんと祖母は顔を見合わせ笑いだした。

そこで電話が鳴った。
祖母が茶の間に、やれやれと言いながら立っていった。

「虚空。ウチの明美が神社で狐が鳴いていたって慌てて帰ってきたから、
それで神社に行ってみだんだ。
そしたら、御神木の根っこで寝ていた、おめえを見つけたんだ。」
と、爺さんが言っている。

そこにふらりと顔の色を無くした祖母が戻ってきた。

「ん?なんじょした?クニさん・・・。」
ただならぬ雰囲気に、爺さんが声を掛ける。
「・・・虚空が言ってた景子が、今亡くなっただ・・・。」
「なぬっ?!」

二人の目が気味悪そうに僕に注がれた。

僕は、さっきのけいこおねえちゃんの姿があまりに鮮やかすぎて、
この二人こそ狐で、僕を化かしているんじゃないかと疑っていた。



今、昔と違うのは、あの時リスがいた本殿裏の大きな杉の御神木が失われていることだ。
数年前の夏の落雷とともに焼失したのだ。
それからというもの、
あの日、僕にけいこおねえちゃんを見せてくれた、“何か”の気配も無くなった気がする。
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by curtis_01 | 2007-12-02 21:16 | 徒然草