青空のような

ペダルにシューズを固定するときにクリートというビンディングを嵌める。
その時に『パキン』という青空のような小気味のいい音がする・・・。



昨日、外せない用事で帰ってきた実家のカーテンを開ける。
雲ひとつも無い。まるでクリートを嵌めたとき音のように心地よく
どこまでも澄み切った青空だ。

朝食をとり、早速ロードバイクを部屋から外に出す。
タイヤの空気圧調整。異音が無いかのチェック。
以前、走って気になっていたサドルの位置を5mmだけ上げてみる。
着替えて、ヘルメットを被り、サングラスを掛ける。
右足をペダルに嵌める。
ちょっと空を見上げる・・・。
“春の海が見たいな・・・。”
左足を踏みおろしながら、クリートを嵌め、走り出す。

南東に向かう。
風は追い風。
30km/h以上のスピードが出ているのに、周りは無風状態。
サドルの位置はベストになったようだ。
ペダルを回すときの脚のもたついた感じが無い。
痺れるような快感が胸を突く。

着いたのは、砂浜が広がる海岸。
クルマ二台分の幅がある堤防にロードバイクを担いで上り、
左手に海を眺めながらちょっと走ってみる。

程好い場所で、バイクをそっと倒し、脚を伸ばして座る。
携帯電話をサイクリングジャケットのバックポケットから取り出す。
ヘッドホンを取り付け、耳に差し込む。
静かに流れるピアノの音。
静かに流れ出す女性ボーカルの声。

疎らに人たちが、思い思いに過ごしている。
犬の散歩をしている。
カップルが海辺を歩いている。

キラキラ光る海面。
白い波頭。
目を上げると海鳥が風を受け漂っている。
じっと見つめていると、青い空の中にその白い姿が溶け込んでいく・・・。

ふと、右手を見ると、100mぐらい離れたところ、
俺と同じようにロードバイクを担いで堤防を上がってくる姿。
“同じような奴がいるんだな・・・”
バイクをそっと倒して、座ってふっと空を見上げた姿。
後ろで縛った長い髪が揺れる。

“女性?・・・”
軽い驚きがそっと胸をなでる。

そのまま、また海を眺める。
4曲分そうしていただろうか。
右手を見るとさっきの女性がまだいた。
バイクに跨り、近寄っていく。

「こんにちは。」

ちょっと驚いた顔が、笑顔に変わり
「こんにちは。」
と返してくる。

20代前半だろうか?
キャップを被り、クリアに近い薄い色のサングラス。
その瞳、小柄なスタイル、可愛い女性だ。
足元のバイクはピナレロのFP5。
ブラックのカーボン地にブルーのカラーリングが
シャープで素敵だ。

「FP5!素敵なバイクですねぇ。」
「学生時代はツーリング用のバイクだったんですが、ロードに乗りたくなって・・・。
 ボーナス全部つぎ込んじゃったんです。」
軽く舌を出し、お茶目な表情をする。

「友達には、自転車にボーナス使うなんて頭おかしいとか言われちゃったんですけど・・・。」
ふふふと笑う。

「いいじゃない。自分が気持ち良くなることに金を使うって。格好いいよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、ずっと自転車に乗っているんだ?」
「ええ、学生時代はツーリングばっかりでした。
 そのデローザも素敵ですね。」
「ありがとうね。俺は自転車は2年ぐらいなんだけど・・・。」
「え?1台目にそれですか?」
「ううん。MTBからツーリングバイク、そしてスピード出したくなってコレ。」
「あ、それ解ります!それで私もこのバイク。」

しばらく、自転車、住んでいる仙台のことで話が進む。

「身体が冷えてきましたね。」
「うん、俺も走り出そうかな?」
「今日はどれくらい走るんです?」
「100kmは走りたいな・・・。」
「ええ!すごい。」
「でもないよ。結構みんな走っているよ。」
「そう?」
「うん。じゃあ、君も楽しんで。」
「ええ、また。」

ちょっとした会話がこの日差しのように明るい気分にさせてくれた。
また、ペダルにシューズを嵌め走り出す。


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今日、一日で96km。
彼女に言ったように100kmは
走れなかったけど、
今日の青空のような・・・
こころが晴れた休日。
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by curtis_01 | 2008-03-09 20:05 | 自転車
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