あぢきなく春は命のをしきかな花ぞこの世のほだしなりける
和泉式部
やるせないほど春は命が惜しいのです。
花がこの世を去るさまたげになるために・・・。
4月になってからの景色。
朝の通勤時。
とあるビルの前に停まったクルマの運転席から
紙袋や、沢山の荷物を持った50代ぐらいの男性が降りてくる。
助手席から奥さんらしい女性が降りてきて、
その男性のスーツの襟を直し背中をぽんぽんと叩く。
男性は肩越しに女性に笑みを送る。
夜の新幹線。
荷物に花束を持った若い男性が乗り込んでくる。
床に置いた紙袋からは文房具が覗いている。
花束をひざに置き、車窓の外を眺め、
ため息をひとつ。
今日の仕事帰り。
街燈に照らされた、見事に咲いた桜を眺める男。
あまりの美しさに心を奪われている。
あと、何度桜を眺められるのか・・・
そんなことを考えているように見える。
それぞれの胸に去来する不安、希望。
そして、その想いの中に“これから”を見つめている。
咲くも桜なら、散るも桜。
ならば、綺麗に舞いましょう。