残業帰り。
国道沿いの大きい本屋に寄る。
閉店まであと30分というところ。
大きなガラスの自動ドアが開く。
近くの雑誌のコーナーに立っていた女性が何気なくこっちを見る。
ふたりの視線が合った。
・・・一拍おいて彼女の表情は“え?まさか?”。
きっと俺の表情も同じだったはず。
「なんで?」
「マジ?なんでここにいるんだよ?」
「今、このそばに住んでるの。」
そう言いながら、口元に持って行った左手の薬指には綺麗な指輪。
「こっちに嫁いできてたの?」
「うん、そう。」
「そっかぁ。すごく久しぶり。」
「うん、20年以上?」
彼女の言葉の最初に、『うん、』をつけるクセは変わらない。
「うーん、そうなるかぁ。元気そう…だね。」
「うん、元気だったよ。そっちも・・・元気そうね。」
そう言って、すごく明るくいい笑顔。
「ああ、相変わらずだな。」
「うん、なんか、変わらないね。」
「嘘。すっげぇ、オジサンだろぉ?」
「そんなこと言ったら私もでしょ?雰囲気が変わらない。」
「名前のとおり、ガキのままなんでね。」
「そのセリフも。」
そう言って、君は笑う。
俺も一緒になって笑った。
20数年前の様々なシーンが頭に浮かぶ。
でも、経ちすぎた時間がふたりの間の言葉を見つからなくさせている。
「んじゃあ、また。・・・元気でね。」
「うん、そうね。またいつか。」
そうして最後にふたりで微笑みあった。
これが今日の出来事。